HOME > 「最新労働法規解説」解説:岩崎通也弁護士

2014年10月27日

 今回は、平成26年の通常国会で成立し、平成26年11月1日施行の「過労死等防止対策推進法」を取り上げます。この法律は、企業に具体的な義務を課すものではありませんが、今回は、「過労死等防止対策推進法」の概要とこの法律ができた背景としての過労死等を巡る問題について述べたいと思います。  なお、過労死等防止対策推進法に関する政府からの情報は、順次以下の厚生労働省のサイトに掲載されていくとのことです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053525.html

1 過労死等防止対策推進法の概要

(1)目的

 過労死等防止対策推進法の目的は、「近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とすること」とされています(1条)。

(2)「過労死等」の定義

 「過労死等」は、業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害とされています(2条)
 後述するいわゆる過労死認定基準と平仄を合わせたものとなっています。

(3)法律の概要

 過労死等防止対策推進法は、基本的に国が行うべき対策、措置を定めたもので、事業主や個人については、具体的な義務を定めていません。
 国は過労死等防止啓発月間(11月)を設けること(5条)、政府は国会に過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書を提出すること(6条)、政府は過労死等の防止のための対策に関する大綱を定めること等とされています。
 また、過労死等の防止のため、以下の4つの対策を行うこととされています。

(1)
国による過労死等の実態の調査研究(8条)
(2)
国・地方公共団体による教育活動等を通じた国民への啓発(9条)
(3)
国・地方公共団体による過労死等のおそれのある者及びその親族等が相談できる体制の整備(10条)
(4)
国・地方公共団体による民間団体の活動への支援(11条)

 更に、遺族も参加する過労死等防止対策推進協議会を設置すること(12条、13条)、過労死等の防止のために必要な法制上の措置等に講ずることとされています(14条)。

(4)過労死等防止対策推進法による企業の義務

 この法律による企業の義務については、「事業主は、国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めることとする。」との努力義務が課されていますが(4条3項)、具体的な義務は規定されていません。
 もっとも、これは企業が過労死等の発生を防止するための対応をしなくてよいということを意味しませんし、企業としても、目的に記載されている「我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失である」ということを十分に認識する必要があります。

2 「過労死」に当たる場合はどういう場合か

(1)「過労死」とは

 過労死等防止対策推進法の目的に記載されているように、「過労死等」は大きな社会問題となっています。これまでも一般に「過労死」「過労自殺」といった用語は、業務が原因となって生じた死亡を意味するものとして使用されており、言い換えれば、労働災害に該当するものが「過労死」「過労自殺」といわれてきたものと思います。同法では、「過労死等」の定義規定が置かれていますが、この定義規定も、まさに労働災害に該当するものを過労死等としています。

(2)脳血管疾患、虚血性心疾患による死亡

 過労死等防止対策推進法では、業務における過重な負荷による脳血管疾患、虚血性心疾患による死亡を「過労死」と位置付けており、これは、脳血管疾患、虚血性心疾患により死亡した場合にそれが労災に該当するかどうかを判断するための基準である厚生労働省の通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患(負傷に起因するものを除く。)の認定について」(平13.12.12基発1063号、平22.5.7改正基発0507号第3号)の規定と平仄を合わせた形になっています。
 脳血管疾患、虚血性心疾患による死亡が「業務による過重な負荷」により生じたかどうかは、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張等種々の要素が総合的に判断されますが、長時間労働があったかどうかが一つの重要な要素であり、上記通達では、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1カ月当たり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」とされています。

(3)精神障害を原因とする自殺

 うつ病を原因とする自殺が労働災害と認定されるかどうかについては、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平23.12.26基発1226第1号)に定める認定基準によります。
 認定方法はやや複雑ですが、「業務による強い心理的負荷が認められること」が労災認定される要件の一つとなっています。その判断の対象となる事項は多岐にわたりますが、やはり「強い心理的負荷」となる重要な要素の一つとして、以下の通り長時間労働が挙げられています。

・直前1ヶ月間に概ね月160時間以上の時間外労働
・直前の連続した2か月間に1月当たり約120時間以上の時間外労働
・直前の連続した3か月間に1月当たり約100時間以上の時間外労働

 また、他の出来事(例えば転勤して新たな業務に従事した場合)に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合には、やはり強い心理的負荷があったとされます。

(4)過労死についての企業等の責任

 企業は、「労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務(労働契約法5条)といういわゆる安全配慮義務を負っており、過労死、過労自殺が労災認定されるケースでは、企業側に安全配慮義務が認められる例が多いといえます。その場合には、過労死、過労自殺により生じた損害について、企業は、遺族に対して損害賠償責任を負うことになります。
 また、過労死が生じたことについて、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築していなかったとして、会社のみならず、会社法に基づく取締役個人の損害賠償責任が認められた裁判例もあります(大阪高裁平成23年5月25日、最高裁平成25年9月24日上告棄却により確定)。

3 企業の対応

 過労死等防止対策推進法の施行により、直ちに企業が対応を迫られる事項はありませんが、同法が11月1日に施行され、また11月が過労死等防止啓発月間であることに鑑みて、この機会に改めて従業員の生命・健康に関わる体制をチェックすることも有益であると思います。
 上記2で紹介した基準は、既に大多数の企業において認識されていると思いますが、それでもこの基準を超える時間外労働による過労死の事案は後を絶たず、未だ多くの企業において十分な対策がなされていないことがわかります。また、今年の通常国会で労働安全衛生法の改正によりストレスチェックが義務付けられるようになるなど企業が労働者の生命・健康を守るために行わなければならない責務は年を追うごとに増え続けていますので、常に最新の情報をアップデートしつつ、不断の見直しをしていくことが企業に求められています。